我が国では災害が後を絶ちません。
医療機関では災害時には通常の業務に加え、救急も増えるため、一般の企業よりも強力なBCPが求められているといえます。
2026年度の診療報酬改定では、次の点が強化されました。
① 機能強化加算
許可病床数200床未満の病院または診療所を対象に、初診料に80点が上乗せされる加算で、施設基準にBCP(業務継続計画)の策定が新たに盛り込まれました。
「医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成の手引き」などを参考にBCPを策定し、計画に従って必要な措置を行い、定期的に見直すことが明記されています。
点数自体(80点)に変更はありません。
② 在宅療養支援診療所・病院(在支診・在支病)
在宅療養支援診療所・病院の施設基準にBCP策定と定期的な見直しが新たに要件化されました。
災害時等でも在宅患者への医療提供を継続できる体制を、厚生労働省の「BCP策定の手引き」等を参考に自院の実情に応じて策定することが求められます。
全国に多数存在する在支診にとって影響の大きい要件です。
(経過措置)
2026年3月31日時点で機能強化加算の届出を提出済みの医療機関には、2027年5月31日までの経過措置が設定されています。
病院におけるBCP
概して、病院におけるBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)とは、地震・水害等の自然災害、感染症のパンデミック、大規模システム障害、テロ等の緊急事態が発生した際にも、病院が担うべき医療機能を維持し、早期に通常業務へ復旧するための事前計画です。
一般企業のBCPと異なり、病院BCPには「人命に直結する」という特殊性もあります。
停電や断水が数時間続くだけでも人工呼吸器や透析治療を受ける患者の生命が脅かされるため、他業種以上に高い実効性が求められます。
BCP策定の基本的な考え方
病院BCPでは、まず「限られた資源(人員・医薬品・電力・水・医療機器)で、どの医療機能を優先的に維持するか」を明確にすることが出発点となります。
すべての診療を平時同様に継続することは現実的に不可能であるため、緊急度・重症度に応じたトリアージの発想を経営レベルにも適用し、優先業務を絞り込む必要があります。
具体的には、①救急外来・手術室などの生命維持に直結する機能、②人工透析・分娩など中断が困難な機能、③一般外来・予定手術など延期可能な機能、という優先順位づけを行うのが一般的です。
主要な検討領域
病院BCPが対象とすべき領域は多岐にわたります。
第一に「ライフライン」であり、自家発電設備の稼働時間、燃料備蓄、給水タンクの容量、医療ガス供給の代替手段を具体的に数値で把握しておく必要があります。
第二に「人員体制」で、職員自身や家族の被災を想定した参集ルールの策定、交代要員の確保、近隣医療機関との相互応援協定が重要となります。
第三に「情報通信」であり、電子カルテがダウンした場合の紙運用への切替手順、衛星電話等の代替通信手段の確保が求められます。
第四に「医薬品・医療材料」の備蓄と、卸業者・他院との連携による供給網の多重化も欠かせません。
組織体制と訓練
BCPは策定して終わりではなく、実効性を担保する体制が不可欠です。
多くの病院では災害対策本部の設置基準や指揮命令系統(誰が本部長となり、不在時は誰が代行するか)をあらかじめ定めています。
加えて、年1〜2回の机上訓練・実動訓練を通じて計画の実効性を検証し、訓練で判明した課題を計画にフィードバックするPDCAサイクルを回すことが定着の鍵となります。
日本ではBCP策定済みでも実際に機能したのは一部にとどまったという東日本大震災の教訓もあり、机上の完成度より運用可能性が重視されるようになっています。